もう浜田省吾の「ラストショー」ごっこはできない。
俺は今一人海岸線を車で走っている。真夜中という事もあり海は見えない、対向車もほとんどない一人では寂しい海岸線だ。彼女に呼び出されて、さっきまで行きつけのバーガーショップで彼女と他愛無い会話をしていた。だが不意を衝くかのように彼女は切り出してきた。
「やっぱり、もうあなたとは会えないわ、別々な道を歩みましょう。あなたはあなたの音楽を大切にして。わたしも平凡な幸せを見つけるから。」
俺は遮るように強い口調で「平凡ってなんだよ? 俺といると楽しくないのか?」
「楽しいわよ、だけど結局二人がたどり着くところは違うのよ。」
「遅かれ早かれ、わたしたちは別々の道を歩くことになるのよ。」
「・・・・」
頭が真っ白になり、他に何を話したかは覚えていない。
真夜中の海岸線をハンドルを握りながら言えることはバックシートにギターを放り投げ、彼女の肩を抱きながら海岸線を走ることはもうないということだ。
彼女と「ラストショー」ごっこはもうできない。
やがてフロントガラスに落ちる雨音が、何も考えられない俺の耳に「仕方ないよ」とつぶやきかけてきた。